
品川区代表として出場権を手にした 「東京都軟式野球連盟 第2ブロック学童軟式野球大会」
近隣6区の代表チームが集い、頂点を競い合うトーナメントだ。
そして、6年生にとってはこれが学童野球最後の大会となる。
1回戦、15-1。圧巻の攻撃力で大勝し、最高のスタートを切った。
続く2回戦、12-2。相手の追随を許さぬ強さを見せ、ついに決勝の舞台へ駒を進めた。
決勝戦。この15人で戦う、最後の日。
泣いても笑っても、このメンバーが同じユニフォームに袖を通し、優勝旗を目指すのは、これが最後。
今日は寂しいことに、背番号14番のかわいいやつがいないけれど、みんなの気持ちはひとつだ。
この世代は、何度か栄冠に手を伸ばしながらも、どうしても掴みきることができなかった。
あと一歩のところで届かず、流した悔し涙は数え切れない。
それでも、歯を食いしばり、悔しさを力に変えて走り続けてきた。
そして迎えた、最後の公式戦。
グラウンドに立つ15人の目に、もう迷いはない。
彼らの心はひとつ――優勝旗を掴むために。
さあ、行こう。運命の舞台へ。
1回表、ブルレンの攻撃。

先頭の1番・TKMが果敢にセーフティーバントを試みるがファール。続く打球はファーストゴロとなるも、その気迫にベンチが沸く。
2番・KTRは鋭い打球を放つが、ショート正面のゴロでアウト。
そんななか、3番・REIがレフト前ヒット!一気に流れを引き寄せたい場面。
しかし、続く4番・RYUの打球はセンターフライ。得点は0-0。
静かにベンチへ戻る選手たち。
「ここからだ——。」 決勝戦はまだ始まったばかりだ。
1回裏、相手の攻撃。
初球、1番打者がセンター前ヒットで出塁。2番打者が送りバントを決め、1アウト2塁。
続く3番打者はセンターフライで2アウト。
ここで相手が動いた。三盗を狙う!
しかし、キャッチャー・REIが冷静に送球し、完璧なタッチアウト!
相手のチャンスを断ち切った。
KATが、ベンチに戻った仲間に声をかけてくれる。
ただ座って試合を見ているだけの選手ではない。
ベンチのリーダーとして、このチームを支えてきた。
自分なりの役割を見つけ、試合に出られる数が少なくても絶対に腐ることなく、全力で野球を続けた。
声を張り上げ、仲間を鼓舞し、プレーの合間にはそっと肩を叩く。
その一言、その仕草が、どれほどチームを救ってきたことか。
今日は勝つんだ。優勝するんだ。
みんなで-。

2回表。
打順は、5番・TMUから。

TMUがライト前ヒットで出塁し、すかさず盗塁成功。
6番・HRTのゴロでランナーが3塁へ進み、1アウト3塁。
ここで7番・STRにスクイズのサイン!
しかし、バントはファール……。だが、次の一球を強振!

打球は右中間を破る2ベースヒット!1点先制!
しかし、8番・MSAのライナーがそのままダブルプレーとなり、追加点ならず。
スコアは1-0。 それでも、先制点を奪い、流れを引き寄せた。
2回裏、相手の攻撃。
4番打者をキャッチャーフライに・・・。

REIが痛恨のエラー。
呆然と立ち尽くし、その後は声が出ないキャプテン。切り替えろ-。
続くヒットでランナーが進み、ノーアウト満塁のピンチ。
だが、7番打者をファーストフライで打ち取り1アウト。
さらに、8番を三振、9番をファーストゴロ!
黙り込むキャッチャーREIを、HRTの安定した投球が救い、この回をなんとか無失点で抑えた。

スコアは1-0。
静かにベンチへ戻る選手たち。試合はまだまだ続く。
3回表、追加点のチャンスが訪れる。
先頭の9番・KNTは8球粘り抜くも、惜しくも三振。

しかし、この粘りがチームに火をつけた。
続く1番・TKMが冷静にボールを見極め、フォアボールで出塁。
2番・KTRも落ち着いて四球を選び、チャンスが広がる。

さらに3番・REIもフォアボールを選び、1アウト満塁の絶好機!
ここで4番・RYUがサードフライに倒れるが、流れはまだブルレンにある。
5番・TMUがライト前へ弾き返し、ランナー2人がホームイン!
ベンチは歓喜に包まれる。得点は3-0。
6番・HRTは気迫のスイングでサードゴロ。惜しくもチェンジとなるが、追加点を奪い、試合の主導権を握った。
3回裏、ブルレンはピッチャーを交代。
マウンドに上がったのは5年生のTKM。
緊張感が漂うなか、試合の流れを変えさせない強い気持ちで腕を振り抜く。
1番打者はライトフライに打ち取り、落ち着いて1アウトを奪う。
続く2番打者には自慢のストレートで挑み、見事三振!
ベンチからも大きな声援が飛ぶ。
しかし、3番打者はフォアボールで出塁。
「次で必ず仕留める」――そう誓ったTKMは、気持ちを切り替え、再び渾身のボールを投げ込む。
そして4番打者を力強いストレートで再び三振!
得点は3-0。
緊張の場面を見事に抑え、5年生とは思えないTKMの投球が、チームにさらに安心感を与えた。
4回表、さらなる追加点を狙う。
7番・STRが粘り強くフォアボールを選び、出塁。

続く8番・MSAが鮮やかなレフト前ヒットを放ち、チャンス拡大。

さらに9番・KNTの送りバントが内野安打となり、無死満塁の絶好機!
ここで1番・TKMがピッチャーゴロを放つも、ホームでアウト。
それでも、なおも満塁の場面で2番・KTRがセンター前ヒット!
ベンチが歓喜に包まれ、スコアは4-0。
しかし、続く3番・REIの打球はライトへの浅いフライ。
1塁ランナーが戻れず、まさかのダブルプレーでチェンジ。
キャッチャーフライのエラーを引きずり、精彩を欠くキャプテンREI。
このまま引きずれば、試合の流れが変わるかもしれない――。
「まだ試合中だ!下を向くな!」 ベンチから、心が折れかけた主将に強い言葉が飛んだ。
4回裏。TKMの好投が光る。

落ち着いた守備で無失点。

スコアは4-0。
選手たちは試合の流れを掴んだまま、次の攻撃へ向かう。
5回表、少しずつ流れが変わり始める――。
4番・RYUは相手バッテリーの巧妙な配球に翻弄され、見逃し三振。
しかし、続く5番・TMUがセンター前ヒットを放ち、反撃の兆しを見せる。
6番・HRTが2ストライクからの4球目を待つ中、TMUが盗塁を仕掛ける!
だが、相手投手の気迫のこもった一球がストライクゾーンいっぱいに決まり、
同時にキャッチャーが完璧な送球で二塁を刺す――。
まさかの三振&盗塁死のダブルプレー。 一瞬で3アウトとなり、チャンスは潰れた。
ベンチに戻る選手たちの表情には、どこか重い空気が漂う。
得点は4-0のまま。 「何だか嫌な予感がする――。」
その不安が、静かにチーム全体を包み始めていた。
5回裏、試合が大きく動き出す――。
相手9番打者がセンターの横を抜ける痛烈な2ベースヒット!
さらに、続く1番打者が打球をレフトオーバーへ運ぶ。3塁打!
ついに失点。スコア4-1。
たまらずキャッチャー・REIがタイムを取り、マウンドへ駆け寄る。
やっと、キャプテンに魂が戻ってきた。

「ここで食い止めるしかない——。」
しかし、その決意もむなしく、2番打者のセンター前ヒットで追加点。
スコアは4-2。 相手の勢いが止まらない。
無死1・2塁。
3番打者がフォアボールを選び、無死満塁。1アウトが遠い。
ここでブルレンベンチが動く。
ピッチャー交代。再びHRTがマウンドに立つ。

HRTは、ここまで33球を投げている。
この大会の球数制限は70球だ。
我らがブルーレーシングの背番号1のHRTは、あと37球投げられる計算になる。
最初の4番打者をピッチャーフライに仕留める! 1アウト。
だが、続く5番打者のサードゴロは併殺を狙うも間に合わず、まさかのオールセーフ。
1アウト満塁。追い込まれるブルレン。
6番打者。
粘られ、苦しいカウント。
最後は外れた……。押し出しのフォアボール。 スコア4-3。
そして、7番打者。
ピッチャー・HRTが投じたボールがわずかにキャッチャーのミットを弾く!
パスボール。 ついに同点、4-4。
静まり返るベンチ。
「試合が振り出しに戻った……。」
この瞬間、きっとほとんどの選手たちは、ある記憶を思い出していた。
ジュニア時代の決勝戦――。
3-0で迎えた最終回。
勝利を確信して向かったラストイニングの守備。
相手の猛攻を食らい、一気にひっくり返され、まさかの3-4のサヨナラ負け。
あのときの悔しさ。涙。
「また同じことが起こるのか……?」
時計に目をやる。
時刻は10時52分。
試合開始から、既に1時間29分が経過していた。
この大会のルールは、試合開始から1時間30分を経過したら、
次のイニングに入らないことになっている・・・。同点であればタイプレークが待っている。
つまり-。
「もしここで1点を失えば、試合は終わる——。」
流れは、完全に相手に渡り、グラウンド全体が相手の色に染まっていく。
相手チームの選手たちはベンチを飛び出し、身を乗り出して拳を振り上げる。
その声は、歓声というより轟音だった。
まるで勝利が手の届くところにあると確信しているかのように。
ブルレンの選手たちの耳にも、その叫びは容赦なく突き刺さる。
ブルレンメンバーは、今まさに相手に完全に飲み込まれようとしていた――。
そのとき、静まりかけたブルレンに、鋭く響く声があった。
「まだ終わってない!終わってない!!」
セカンドの位置から、まっすぐに響くその声。
副キャプテン・STR。
このチームは、何度も彼の声でひとつになってきた。
どれだけ追い込まれても、どれだけ逆境に立たされても――。
この大ピンチでも、STRの魂は、消えていなかった。
むしろ、チームを再び奮い立たせるように、力強さを増していた。
STRの声を背中に受け、HRTは必死に踏ん張った。
8番打者を渾身のボールで三振! ついにチェンジ!

しかし、受けたダメージは大きい。静かにベンチへ戻る選手たち。
3アウトを取って、ベンチに戻った瞬間に、本部のアラームが鳴った。
危なかった-。首の皮一枚繋がった-。まだ、次のイニングを戦える-。
でも、もう後がない。誰もがそう感じていた。
この回で、エースHRTの球数は、52球に達した。
6回表、重い空気が流れる攻撃――。
どうしても追加点が欲しい。
先頭の7番・STRは必死に食らいつくも、相手ピッチャーの力強い球に押され、フルスイングの三振。
続く8番・MSAも、打球はショート正面へ。2アウト。
嫌な雰囲気が漂う中、9番・KNTが渾身のスイング!
打球はレフト前へ抜け、チームに望みをつなぐ一打!
しかし、ここで迎えた1番・TKMが痛恨の三振。
得点は動かず、チェンジ。
スコアは4-4のまま。
ベンチに戻る選手たちの表情には、焦りと静かな覚悟が交錯していた。
6回裏、この試合最大の山場が訪れる。
9番打者をセカンドフライに打ち取り、まずは1アウト。
しかし、続く1番打者が放った打球はセンターを鋭く破り、一気に三塁打!
スタンドがざわめき、嫌な空気が漂う。
1アウト3塁。
1アウト3塁・・・。
野球のセオリーでは、この場面で得点が入る確率は60%を超えると言われている。
さあ、守り切れるか。
初球はストライク。緊張感がピークに達するなか、相手チームが動いた!
スクイズだ!
三塁ランナーがホームへ突進する。
その瞬間、すべてがスローモーションに変わったように見えた。
バッターがバントの構えに変える。
バットに当たったボールがピッチャー前へ転がる。
ピッチャー・HRTがボールに向かって突進するが、打球は三塁寄り。
体勢を崩しながらも、懸命に捕球。
だが、ランナーはすでにホームベース間近!
間に合わない――。
ここで、HRTが勝負に出た。
崩れた体勢から、そのままグラブトス!
さらに時間がスローモーションに感じられる。
ボールはキャッチャーのもとへ。でも、やや高い・・・。

キャッチャー・REIが素早く高めのボールを捕球し、即座にタッチ!

砂煙が舞い、視界が一瞬かき消される。
静寂が訪れる。まるで時が止まったかのようだー。

審判の声が響く-。

「アウト!!」
ギリギリのギリギリのタイミングで、アウト!
歓声がグラウンドを包み、息を詰めていたベンチにも笑顔が戻る。
最後は3番打者のファーストフライを冷静にキャッチし、この回を0点で抑えた。
スコアは4-4。
勝負はまだ終わらない。選手たちは次の瞬間に向けて、静かに気持ちを高めていった。
しかし、この回でエースHRTの球数は、63球に達してしまった・・・。
試合は、運命のタイブレークに突入する-。
7回表、タイブレーク開始。
ノーアウト1塁・2塁からのスタート。
9番・KNTが2塁ランナー、1番・TKMが1塁ランナーとして、運命の攻撃が始まる。
最初の打席に立つのは2番・KTR。
緊張感が漂うなか、冷静にボールを見極めてフォアボールを選び、満塁。
一気に追加点のチャンスが訪れる。
ここで3番・REIが打席に立つ。
思い切りスイングした打球はライトへ高い飛球。
3塁ランナーのKNTが、タッチアップに備える。
しかし、打球に伸びが足りない・・・。
ライトフライで1アウト。
ランナーたちのドキドキも止まらない。
バッターボックスに立つ4番・RYU。
かつてジュニア時代、彼のバットはほとんど火を吹かなかった。
試合が動く場面で打てず、何度も悔し涙を流した。
しかし、あの頃のRYUはもういない。
今や品川地区選抜の4番にまで成長した。
誰もが認める、チームの主砲。地域の主砲だ。
そして今、彼のバットが、ブルレンの運命を握っている――。

相手バッテリーが警戒しながら投じた一球に、RYUのバットが鋭く走る。
乾いた打球音が響く。
打球は弧を描き、センターの奥へと伸びていく――。
全員が息をのんだ。
しかし、あと少し伸びが足りない。
センターが深い位置でキャッチ。
犠牲フライ!!
3塁ランナーのKNTが、一瞬の迷いもなくベースを蹴る。
全力で駆け抜け、ホームへ突進!
5-4。ついに、勝ち越し!!
さらに、5番・TMUが放ったセンターへの打球は、相手のエラーを誘い、再びチャンスが広がる。
だが、6番・HRTの放った鋭いライナーは、センターのグラブに吸い込まれてチェンジ。
得点は5-4。
最小限のリードだが、選手たちは力強い表情でグラウンドに戻る。
「守り切るぞ!」という声が自然と上がり、チームはひとつにまとまっていた。
7回裏、運命の守り――。
HRTは、球数制限まで、あと7球しかないー。
このチームには経験を積んだピッチャーが、TKMとHRTの2人しかいない。
そして、HRTの球数は、あと7球だけだ。
果たして、この7球で勝ちきれるか-。
相手もタイブレークからのスタートだ。ノーアウト1塁・2塁。
1球も無駄な投球は許されない。そして、ひとつのミスが命取りとなる緊迫した場面。
相手打者はなんと4番バッターから。この局面で強力な打線との対戦になる。
両チームのベンチから、割れんばかりの声が飛び交う。
ブルレンベンチでは、KATが先陣を切って声を張り上げる。
その声に呼応するように、YMUとNBUとYUTが続く。

GKUは、声を出しながらベンチ内を駆け回り、選手たちに声をかける。
「いけるぞ!絶対に守り切る!勝つぞ!」
ベンチの熱気が、フィールドの選手たちを後押しする――。
4番打者に対する、HRTの初球。
低めのスローボールで空振り!1ストライク。
キャッチャーREIはショートバウンドもキッチリ止めている。
幼少期からずっと組んできたこのバッテリーも、あと6球でお別れのときがくる-。
続く、2球目は、ストライクゾーンで勝負。
真ん中少し高めに速球を投げ込む。4番打者はフルスイング。
打球はセンターへの高いフライ。選手たちは息を詰めて見守る。センターTKMがガッチリ掴んで1アウト!
さぁ、向かえるは5番打者。
HRT、この回の3球目も速球で押す。打者はバントするがファール。
4球目は、高めに外れてボール。
1アウト1塁2塁。カウントは、1ボール1ストライク。
HRTの球数制限まで、あと3球しかなくなったが、
REIからHRTへの返球は、その焦りを感じさせない。
きっと大丈夫だ。このバッテリーは強く結ばれている。
HRTの5球目!相手チームが勝負に出た!ダブルスチール!
HRTのストレートはど真ん中に決まってストライク!
キャッチャー・REIが冷静に状況を見極め、3塁に送球!

サードKNTが完璧なタッチ!ランナーはタッチアウト!
「ナイスプレー!」ベンチから歓声が上がる。
これで、ついに2アウト!
ランナー2塁。カウントは、1ボール2ストライク。
HRTの6球目は、外角高めに外して、2ボール2ストライク。
「あと1アウトで優勝だ……!」誰もが固唾を飲んで見守る。
ピッチャー・HRTがマウンド上でゆっくりと深呼吸をし、
6年間のすべてを込めて、ついに70球目を投げ込む。渾身の一球――。

空を切るスイング。三振!!
「勝った!勝ちきった!!」
「ゲーム!」 グラウンドに響き渡る審判の声。
選手たちは極度の緊張から解放された瞬間、感情が爆発した。
長かった6年間。苦しさも、悔しさも、すべてが報われた瞬間だった。


-あとがき-
これまでの君たちなら負けていたゲームだ。
試合の時間制限、奇跡のグラブトスで防いだスクイズ、エースの球数制限。
もしも、野球の神様がいるのなら、今日は、君たちに微笑んだということだろう。
崖っぷちの6回裏から、試合を決めたタイブレークの7回。
君たちは、チームとして魂をひとつにしていた。
声を出してお互いを支え合って、夢中で白球を追いかけていた。
それは、この1年間で1番きらめいている瞬間だった。
悔しさを越えた成長があったからこそ、野球の神様は君たちに微笑んでくれたのだろう。
6年間の公式戦のラストゲーム。
勝って、笑って終えられるチームがどれだけあるだろうか。
今日は、悔し涙じゃない。あの涙じゃない。
はじめての歓喜の涙が頬をつたっている-。
ここまで無冠のチームに授けられた初めての優勝旗。
まるで、君たちのこれからを応援しているようにたなびいていた。
